底堅い「資源力」と湧き上がる「消費力」で
成長の道を切り開く
ロシアはグルジア紛争以降、すっかり悪玉扱いされ、
株式市場の下落は悪印象を助長している。
だが待ってほしい。ロシアは原油産出量で世界第2位、
天然ガス埋蔵量では世界第1位と圧倒的な資源大国。
世界的に資源需要の高まる状況下、ロシア経済の真相を深掘りしてみよう。
構成=神部 旬/玉居子精宏 イラスト=村上モトヒロ

国益が至上命題の行動原理
「新冷戦を辞さず」の真意
実質国内総生産(GDP)成長率が2003年から5年連続で6%超、07年は8.1%。低成長の日本から比べればうらやましいほどの国──。それがロシアだ。
だがそのロシアをめぐっていま、不穏な話題が出始めている。グルジア紛争における旧ソ連を思わせる強硬な姿勢を通じ、「政治リスク」が印象づけられた向きも多いだろう。加えて米国発のサブプライムローン問題に端を発した金融危機はロシア市場に飛び火、ロシアの株式指数はショックの大きさを示し、1998年の金融危機以来の下げ幅で危機の雰囲気を醸成した。
だが冷静に見て、ロシアにはあり余る石油、天然ガスなどの資源がある。需要が高まり続けるこの時代に、資源大国の成長が簡単に腰折れするのだろうか。
そもそもグルジア紛争を見ても、ロシアの貿易・投資に占めるグルジアの割合は少ないためマイナスには出にくい。むしろロシアから食糧・エネルギーを輸入するグルジアのほうに悪影響が出ると見る識者もいる。
ロシアにとっての不安はむしろ政治だろう。とりわけ問題になりそうなのは長期の交渉を強いられているWTO(世界貿易機関)加盟だ。全会一致が原則のため、すでに加盟済みのグルジアが認めず加盟が遅れると、外国からの投資が伸び悩む危惧がある。
これは欧米石油メジャーと組み、国内で資源開発を進めてきたロシアにとっては避けたい事態だろう。
ロシアの近隣では2003年にバラ革命(グルジア)、04年オレンジ革命(ウクライナ)、05年チューリップ革命(キルギス)と独裁主義的な政権の打倒によって体制が変革されている。モスクワでは「ロシアでも同様の動きを」との話があるとされており、ロシア側の警戒心は強い。そういった背景があっての紛争勃発だったわけだが、駐日グルジア大使館はすぐさま状況についての説明会を開き、親米政権らしいPRの巧みさを見せた。
中央アジア方面のビジネス関係者は、ロシアの脅威をことさらに煽る必要がないことを指摘しつつ、「ロシアはこういうケースで説明がうまくないきらいがある」と語るように、大国としての説明責任に向き合うべきなのかもしれない。そうすることで資源の魅力で外国からのマネーを集め、成長を拡大させられるからだ。
実需ある石油・天然ガス
ロシアをウォッチする三菱UFJリサーチ&コンサルティングの堀江正人研究員は、高止まりしている原油価格がロシアにもたらす好影響に関し、「サブプライムローン問題によって、一次産品である原油にマネーが流れ込んだ」とし、投機性を除いたとしても「中国をはじめとした新興国の実需がある」とする。天然資源の埋蔵量で世界一のロシアだが、シベリア地域はことにそれが豊富だ。
この地域を開発すれば国境を接する隣国中国──世界第2位のエネルギー消費大国(06年)──に直接的に輸出でき、まさに稼ぎやすい。両国は「上海協力機構」で協力関係にあるなど、関係は近い。
またイラク復興の遅れを受け、供給面での制約は続くため、価格高止まりの可能性は大きい。
堀江氏は、「ロシア株や通貨ルーブルが売られたが、準備基金が約15兆円に達しており、これを使えば暴落の心配もない。ロシアは07年、経常収支、資本収支、財政収支のいずれもが黒字になっており、弱点は見えない」とする。
ではサブプライムローン問題の波及はどうなのか。結論からいってしまえば、市場の混乱は一時的に生じているものの、ロシア経済の屋台骨を揺るがすものとはなりにくそうだ。
「ロシアにはいま、現金が潤沢にあり、消費はそれで賄われている」(堀江氏)。これは不幸中の幸いというべきか、まだ国内で金融業がさほど発達していないため、ローンを組んで消費するスタイルはまだ一般的でない。GDPに対する銀行の貸し出しの比率も小さい。
市場の下落は米国の影響
メドベージェフ大統領が就任した今年5月半ば、史上最高値をつけた株式市場だが、その後下落の一途をたどった。きっかけとしては「米国株下落を受けて米国投資家がロシア株を手放した」(堀江氏)ことが挙げられる。
このほか、プーチン首相が7月に原料炭の市場を大きく占めるメチェル社について、国内価格の半値で原料炭を外国に販売していた事実を挙げ、強く批判した。これを受けロシア市場は急落した。外国人投資家が「カントリーリスク」に恐れをなした格好だ。この企業批判は、同じくプーチン首相(当時大統領)により03年、70億ドル超の脱税の嫌疑を受け、石油会社ユコスのホドルコフスキー社長が逮捕され、シベリアの刑務所に服役することになった「ユコス事件」を想起させた。そのため投資家がメチェル株を売りに出たことで下落が起こった・・・
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