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脱藩官僚鼎談
霞が関改革を後退させるな
髙橋洋一X上山信一X岸 博幸

脱藩官僚が語る
「公務員制度改革は終わっていない」

福田首相の辞任表明1カ月前の改造で、
それまで公務員制度改革を主導してきた
渡辺喜美氏は閣外に去っていた。だが公務員制度改革も、
霞が関改革も、まだまだこれからだ。
新大臣、政権の下で果たして改革は続けられるか。
官僚経験者3人に、渡辺大臣が取り組んだ改革の評価と、
今後の霞が関改革を展望してもらった。

司会=木村剛(金融コンサルタント)
構成=FJ編集部 写真=鰐部春雄

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渡辺大臣の改革は評価できる
「裏口の正攻法」だった

──渡辺喜美大臣が旗を振ってきた公務員制度改革とは、一体何だったのでしょうか。
髙橋 国家公務員には「入口」(入省)と「中間」(省庁在職中)と「出口」(退職)の3段階がある。各省割拠主義をなくすために入口の「一括採用」、中間における、省ごとでない内閣一括管理、出口の天下り規制が必要だ。出口の天下り規制は安倍内閣のときにやったので、今回の公務員制度改革では、入口と中間をやるつもりだった。結果としては中間だけに終わったが。
──上山さんは今回の改革はどう見ていらっしゃいますか?
上山 権力の源泉は、「ヒトとおカネをどういうふうに動かすか」という点にありますから、霞が関を改革する上で、人事権の所在をはっきりさせるのには意味があったと思います。組織とヒトの行動様式を変えるためにはいろいろな方法がありますが、自分の将来が誰によって評価され、何によって人生が決まるのかがはっきり見えれば、行動様式は変わるはず。そういう意味で、第二の人生を含めて、自分の仕事が役所の先輩でなく、官邸や第三者に決定されるということになれば、官僚の日常の行動様式は変わっていくでしょう。改革の正攻法は「予算編成権を官邸に移す」とか「会計検査や政策評価の権限を集権化する」といったことだという意見がありますが、政治的にできない。
 そんな中で「カネ」ではなく「ヒト」から手をつけたのは、“裏口の正攻法”。あの時点でできることをやったといえるでしょう。
──できる限りのことはやったと。岸さんの評価はどうですか?
 方向は正しかったと思います。役所の行動原理や中でのパワーバランスを考えると、予算・権限・人事が非常に大事ですから。入口、中間、出口とそれぞれの部分をきっちりやろうとしたことは評価すべきですが、その取り組みが本当に前進するのか、見えなくなっているのが現状です。
──皆さんの評価とマスコミの評価にはギャップが感じられる気がします。
髙橋 マスコミは役所の情報にかなり依存していますからね。記者クラブの情報はほとんどが役所情報だし、クラブに加盟していないとソース(情報源)がない。マスコミが評価しないというのは役所が評価しないということで、逆にいえば、一般の評価は高いのではないでしょうか。実際、私の本は随分売れているわけです。実際この改革をわかってる人は数人しかいない。
 役人の根回しを受けた政治家が反対したことで、図らずも「いかに政官が悪い意味でくっつき過ぎているか」ということが証明されましたよね。
──渡辺大臣は、はた目からは一生懸命やっていたように見えます。上山さんは、渡辺大臣のコミットメントをどう評価しますか?
上山 私は逐次、横で見ていたわけではないので評価できる立場ではない。ですが“発信”という意味でよい仕事をされたと思います。彼を通じて国民に守旧派の抵抗ぶりが伝わった。
──髙橋さんはどう見ますか?
髙橋 私は渡辺さんをそばで見ていて、官邸からの応援が少ないのがよくわかりました。彼が最後に流した涙、あれは本当のうれし涙です。
 たしかに、初めは自民党・官邸の“過去官僚”とか抵抗勢力が法案を廃案にしようとしていた。出入り口の話をした時に、最初、法案には「一括採用」があったのに、民主党と自民党が最後の修正で一括採用を抜きました。それでも、廃案確実といわれていた法案が最後のどんでん返しで成立した。彼はそれまでのことを振り返って感極まり、涙してしまったのでしょうね。
 率直に言って、福田総理も最初あまりやる気がなかったのが、はたから見てわかっていました。だから、法案が成立して渡辺さんはうれしかったと思います。
──抜かれずに残った骨には有効な小骨はないんでしょうか?
髙橋 一番は人事局をつくったことですね。最初の案では局をつくるだけではなくて、庁をつくるという話でした。局になったからといって、総務省の行管局関係課や財務省の給与課とか、人事院の採用部門の機能を全部集めるという話がおざなりになってはいけない。各省から権限を引っぱがして(奪って)人事局をつくるのか、そうした機能を持たない人事局をつくるのかではまったく違う。
「給与法」というのがあって、安倍内閣のときに国家公務員法を改正して年功序列賃金をなくしたんですが、それだけでは足りなくて、給与法も直す必要があります。私はそれを茂木敏光大臣にテレビ番組で言ったのに、彼は本当にやってくれるでしょうか。
 公務員の人件費が高止まりしている。上山さんが関わっている大阪府は大きく下げるけど、国家公務員は給与法があるからできない。公務員の人件費削減では、退職者があっても補充しないというやり方しかできない。これはおかしい。ベースを下げるという“普通の考え方”ができない。
──岸さんはどう見ますか?
 「方向性は正しいものの、実務の段階に入ってかなり厳しくなっているな」というのが正直な感想です。渡辺大臣は大変頑張ったと思います。高く評価してしかるべきでしょう。

「次」を期待される人に
改革はできない

──福田改造内閣の全般的な印象はいかがですか?
上山 特にないですね。次の内閣への「つなぎ」でしかないので。
──茂木大臣がうまく官僚に取り込まれた事実をどう見ますか?
上山 「次」を期待される人には改革は難しいでしょう。「いつ辞めてもいい」と思う人でないと。その点、大阪府の橋下知事は思い切りやってから弁護士に戻ればいいし、田中康夫さんも作家に戻ればいい。竹中(平蔵)さんも同じでした。そういう人は思い切ってやれる。要は頑張るかどうか。いい人かどうかということは問題ではない。今の自民党のような古い体質の組織で伸びていこうという人は改革を主導するポジションでは動けないでしょう。
──財界人による顧問会議は意味がないんでしょうか?
上山 あれはただビッグネームを並べたアリバイ作りに見えます。忙しい人ばかりで、スケジュールが合わないでしょう。
髙橋 脱藩官僚の会でも公募がいいと緊急提言しましたが、結局福田総理はやらなかった。民間人も入りましたが人数も少ないし、選別があったので、やる気のある人がどこまで入っているのか疑問。渡辺大臣サイドでリストを作ったんですが、かなり却下された。却下された中に私は含まれていたらしいです。
上山 渡辺大臣が「この人がいい」と言ったのは、みんなダメ。
 そういう意味でも渡辺大臣は可哀相。彼が頑張って、事務局には外部の人間でもいい人材が入ったんです。脱藩官僚の会のメンバーも非常勤で入りました。
 ただ支えの渡辺さんがいなくなって、旧来の方法で政治の世界で上っていこうという人が来ると、飼殺しにされる恐れもある。
──完全に骨抜きになると見ておくべきでしょうか?
 私はそう思います。
上山 おそらくその前に衆議院解散総選挙になるでしょう。ですから、私は楽観視しています。
──官邸にはやる気がない?
 ないと思いますね。
上山 やる気というか、公務員制度改革クラスの話になると、政権交代をかけた大論争を経ないと動かないと思います。郵政民営化はまさにそうで、選挙をちらつかせながらやった。政党Aか政党Bかという政党選択をかけたレベルの政策として持っていけば、ポンと変わると思います。
 日本は政権交代をろくに経験していない。なので、あのスケールのことをやるならば、当事者にそういうパワーがないと無理。 今度は“自民党の中での政権交代”でなく、本当の政権交代が起きないと。本当の改革、つまり霞が関再々編、イギリス型のエージェンシー(政策の立案・形成部門と分離した執行部門)制度の導入、航空管制や空港の民営化といった類の議論は、政権交代プレッシャーの中でしか、本当の動きは出てこない。
 そうは言っても、論争の相手は民主党ですよね。民主党がやれるとは思えませんが……。
上山 民主党が政権を取ってダメになって、また自民党が取れば、いい。干されていた中から有能な政治家が出てくるはずです。
 そうなるでしょうか? いま論争というと、バラまき論争になってしまっていますが。
上山 当面はそうですが、次の次を考えるしかないでしょう。

官僚の発想は
「すべての道は天下りに通ず」

──今後の政局はどういうふうになると見られますか?
上山 昔は政治の話題といえば、「誰と誰がどこで飯を食って何を決めた」というレベルでしたが、今では、建前でも政策を戦わせるところまでは上がった。道路問題、郵政民営化も本物の改革なのかという議論はありますが、そういう意味で評価できます。
 ただ一般紙をはじめマスコミが暗過ぎる。「日本だけがダメだ」とか「日本だけが沈む」とか。ポピュリズム批判だってそう。皆が政治に参加するとどうしても“ポピュリズム”になる。昔の、選挙にも行かず関心もないアパシー(政治的無関心)よりもましです。
 だけど今は、日曜日の朝からテレビで政治の議論をやっていて、普通のおばさんが掃除機をかけながら「郵政民営化がどうだ」っていう議論を見ている。素晴らしい進歩です。私が子供のころは細川隆元(故人・政治評論家)の「時事放談」だけ。
 欧米では民主政治が進んでいるといいますが、ブッシュだってクリントンだって、同族政治をやっている。日本だけ遅れているという意識を持つ必要はないんです。
 政策に関する霞が関の能力は下がっていて、それが結構政治にも影響する気がします。自分が関わっている役所だけを見ても、政策を考える上での情報収集能力が落ちていますし、出す政策もつまらない。それで世間や政治家に根回しするから、政策に関する議論のレベルは落ちていますね。
上山 私は大阪と東京で活動していますが、大阪で財界や府庁の人と話しているほうが、空港戦略は見えやすいです。霞が関は運賃の許認可などがなくなって航空会社との接点が薄い。残っている権限は、空港工事の権限だけです。
 関西に3つ空港があって、関西空港がダメになっているから伊丹空港を廃止したらどうかとか、神戸はどうするという話をしに行っても、「工事事業の話以外はわからない」という感じ。伊丹を売り払うと1.1兆円で、関西空港の借金とほぼ同額。関西で普通に考えると出てくる話に対して反応できなくなっている。
髙橋 官邸でオープンスカイ(航空自由化)に取り組んだ時、官邸主導で航空交渉も地方がやればいいという方向で進めようとしたんですが、官僚の必死の抵抗にあいました。旧運輸省出身の審議官クラスの人が官邸の私の近くに来て、反対しかしない。オープンスカイが完全に実現しちゃったら、その人も省庁に戻れなくなるからでしょうね。
「役所の権限がすべて。なぜなら“すべてが天下りに通ず”だから」という感じで、全部そこから考えるという話になっちゃう。
 天下り維持のための対応で一番象徴的なのが、政策金融改革のときのこと。各省庁は当然抵抗して反論を用意しますが、その準備に若手のエース級の課長や課長補佐を投入するんです。彼らも本音では嫌でやりたくないし、「ジジイの天下りのために自分たちの時間をとられるのは嫌だ」とは思っているんですが、組織のためには仕方がないということになる。
髙橋 そんなつまらない仕事を霞が関はエース級にさせるから全体の効率が下がる。つまらない仕事はできないやつにやらせればいいのに・・・

続きはFJ11月号で


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