興隆アジアと手をたずさえよ
中国、インドの成長に「アジアの世紀」を見る向きは多い。
この時代にあって日本が迫られる変革を、
アジアの政治・経済に精通した白石隆氏に聞いた。
構成=玉居子精宏/濱田 優 写真=鰐部春雄

アジアは「国内マーケット」だ
国も企業も〝開国〟せよ
―― 最近10年間でアジア最大の変化は何でしょう?
アジア通貨経済危機は1997年に始まり99年くらいまで続いたと考えるのが妥当ですが、これはアジアにとって非常に大きな節目でした。
変化は大別して2つあります。1つは、実感として中国が台頭した。通貨危機に際しては、宮沢イニシアティブで日本も東南アジアに大きな存在感を示しましたが、21世紀に入ると日本の存在感が薄れ、中国が出てきましたね。
2つ目の変化としては、アジア諸国が「政治的権威主義」と「開発主義」を捨て、「市場国家」としての歩みを始めたことがあります。「新しい政治と市場のありようが生まれた」と言い換えてもいいでしょう。
―― 日本企業のアジア進出は近年加速度的に増していますが。
日本の有力企業の業績をごく大まかに見ていますと、利益の30%超が海外での事業によるものですよね。そのうち北米とアジアが10%くらいの割合を持っている。時代の趨勢を見ても将来アジアが伸びるのは間違いない。
日本国内は少子高齢化で人口減少が進んでいく。そうすると日本の企業にとって、アジアは「国内マーケット」と考えないともう後がないんです。
―― 頭脳労働者の受け入れも進める必要性が指摘されています。
「受け入れる」という言い方からしてマズいですよ。「受け入れる」となると「入れてやる」の発想、規制を撤廃すればうまくいくと思っていることになるわけですから(笑)。果たしてその姿勢で優秀な人材が日本に来るでしょうか? 来ないと思いますね。
これからアジアを引っ張る層、年齢にすると30代の人たちはまず3カ国語が使える。アメリカかオーストラリアの大学、さらにビジネススクールなんかを出ていて英語はできる。加えて中国語、そして当然ながら母国語です。正直な話、それだけ能力のある人が日本に来て働く動機があるとは思えません。「開ければ来る」とは夜郎自大(自分の力量を知らずに威張ること)な話なんです。
―― 中国の積極的なアジア進出に対して日本がとるべき姿勢は。
1月16日、メコン地域5カ国(タイ、ベトナム、ミャンマー、カンボジア、ラオス)の外相が初めて一堂に会し、日本で会議を持ちました。一部メディアでは、「中国の〝南下〟に対抗する意味合いがある」との見方がされていましたが、そう単純な話ではないと思います。
中国は大国です。東南アジアの国々は小国ですから単独では中国に相対すことは難しい。みんなでまとまり、かつバランス取りのため域外の国を梃子につかって対応しようとします。たとえば、日本は、日米同盟を堅持することで、台頭する中国とこれからもバランスをとっていくことができる。
一方、東南アジアの国々は日本も含め域外の国をバランスをとるために使っている。最近ではベトナムがその典型ですね。一昨年、党大会が開催され指導部が交代して、新首相は訪日し、国家主席は訪中した。
―― 政治のバランスは経済のバランスとも関係すると思います。
東南アジアの国々は台頭する中国とバランスをとるために日本を使おうとする。日本は阿吽の呼吸で使われればいいんです。企業はこれに乗るべきです。実際、東西回廊でタイのバンコクとベトナムのハノイを接続すれば、日本企業には絶大なメリットがある。
ただし、日本政府はもっと大きな地政学的見方を持たなければいけません。中国・インドの2大国のあいだにある国々(タイ、ベトナムなど)にとっては、世界的な相互依存の網の目に組み込まれれば組み込まれるほど経済的に中国、また将来はインドに依存しないですむ。そういう国の相互依存の拡大、深化を積極的に支援すればいいんです。それが企業の利益にもなる。 アジアでは大国による一極的秩序など誰も望んでいませんよ。各国が欲しいのはバランスのとれたクモの巣のような密な関係です。中国・インドという重みが加わってもネットワークをもっともっと密にしておけば破れない。日本企業の進出はそういうものと考えてよいでしょう。
“日本か中国か”
この二者択一はありえない
――「中国脅威論」は容易に消えないようです。
別に中国の台頭を脅威と受け止める必要はない。中国が台頭し、東アジアにおける力の分布が変われば、国々はそうした変化に対応するしかない。ごくあたりまえのことで、そうした趨勢を踏まえ、長期的にそれが不都合にならないように対応すればいいのです・・・



