競争しない国が直面する最悪のシナリオ
「緊張感のあるときには決して許されなかったようなことが続いている」。
福田政権の経済・財政政策を一刀両断する竹中氏。
OECDに加盟する先進31カ国の中、1人当たりGDPで日本の下位グループ入りは確実だ。
豊かな国でなくなったとき、日本という国家と円という通貨に何が起こるのか。

タガが外れた政府の経済・財政政策
――サブプライムローン問題が盛んに報道されているが、米国の心配をするよりも、日本の心配をするべきだという声も少なくない。まず日本経済の現状は?
竹中 政府の経済・財政政策を見ていると、「一気にタガが外れた」「一気にタガが外れた上に、小泉政権下では、『とんでもない』と言われるようなことが起きている」。もしくは、「緊張感のあるときには、決して許されないようなことが平気で続いている」。正直に言って、そういう感想を持っています。
――具体的には?
竹中 例えば2006年度に名目経済成長率2%を実現するという公約が達成できていません。しかも、この公約が実現できなかったことについて、誰も議論をしていません。また、消費税についても、選択肢を示した上で、増税の議論をしましょうということだったはずなのに、選択肢を示さないまま、増税の議論を始めています。これら全部が公約違反です。おまけに地方財政の問題は、恥ずかしげもなく「交付税を増やせ」というような話が出てきています。そんなことが平気で言われるようになってしまった。しかも、「政府が悪い。小泉改革のせいだ」という風潮ですべての物事を片付けています。これほど論理的でないものはありません。
もう一つの例は地域版産業再生機構です。これは本当に必要なのでしょうか。「地方銀行の不良債権処理を思い切ってやるから産業再生の枠組みを作れ」という話ならわかりますが、地銀の不良債権問題がまったく議論になっていないのに、産業再生機構だけが議論されているのは、「手術はしないのに、麻酔だけ打ちます」と言っているのと同じです。
小泉政権下では、間違いなく大問題になっていました。そういう政策が普通に出てきて、国民もマスコミもまったく問題にしていない。まさにマヒしているとしか言いようがありません。それが一番の病理のように見えます。
――最近は「コンプライアンス不況」と呼んでもいいようなことが起きている。耐震強度偽装問題が原因で改正された建築基準法のために建築住宅着工件数は激減している。消費者金融のグレーゾーン金利廃止もそうだ。まさに「官製不況」という声もある。
竹中 倒産件数は06年から増加しています。グレーゾーン金利の廃止は金融業界にかなりの影響をもたらしました。経済は本当に正直だと思います。変なことをすると必ず現れます。
現実としては、被害調査を行い、必要な手を打たなければなりません。行政が不適切な対応をしたために、資金繰りがつかないということなら、短期的な政策金融の活用をせざるを得ないのではないですか。小泉改革で政府系金融機関の統廃合を決めましたが、政策金融機関はちゃんと残しました。そこに、きちんと仕事をさせればいいんです。
――市場関係者は日本経済が今後縮小し、経済大国としての日本の地位に危機感を感じている人も少なくない。世界のGDPに占める日本のGDPの割合が過去最低となった。
竹中 わかりやすい例を二つ挙げましょう。まず、内閣府が毎年行っている企業行動に関するアンケート調査にその年の期待成長率を尋ねる項目があります。去年1.8%だったものが、将来については、わずかですが下がっています。この「期待成長率が低い」という事実を、まず最初に深刻に受け止める必要があるでしょう。そしてもう一つは、OECDの統計で、05年度に日本の1人当たりのGDPは15位です。OECDは31カ国しかありませんから、もはや日本は豊かな国とは言えません。先進国の真ん中ぐらいで、今後はさらに順位を落とすとみられています。そうなると下位グループです。
購買力平価で比較したら、もっと低くなってしまう。実は日本人の生活水準は低いのだということを思い知らなければいけないのです。皮肉なことに海外では日本文化がすごく評価されていて、日本に来たいと思っている人も多い。当たり前のことですが、文化は急に良くなったりしません。前からそこそこ良かった。日本経済が好調だったので文化に目が向かなかった。ところが、日本の経済が悪くなってしまったので、逆に文化が目立つようになってしまった。私たちはそう理解しなければならないんじゃないでしょうか。
中・長期的に円は安くなる
――そういう状況で円という通貨はどう動くのか。
竹中 長期的には安くなるでしょう。為替相場は、短期と中期と長期の波動を組み合わせた形で動きます。ですから、短期的には高くなる可能性がすごくありますが、中・長期的には安くなると思います。そういう意味では、今回の円高はキャリートレードで海外に出た分が戻ってきて、急速に円高方向に振れたということでしょう。しかし、長期的に見れば、海外に出ようとする円の勢いは止まらないでしょう。
――中・長期的に円の下落傾向が続くなか、現在のような経済・財政政策を続けると、日本は本当に斜陽の国になるのではないか。
竹中 日本人は、今の貯蓄を食いつぶすことを覚悟し始めたと思います。貯蓄を食いつぶせば、ある程度はやっていけます。私はこのことが少子化問題と密接にリンクしていると思っています。
貯蓄を食いつぶしても、子ども1人分の財産は残せる。しかし、2人分はとても残せない。自分が貯めたものを、子どもが食いつぶすところまでは何とか見届けよう。ひとりっ子が増えた理由でしょう。そう遠くない将来に、「ゼロから出直さなきゃいけない」ということになるかもしれません。
関連記事
- 「HSBC PREMIER」がめざす金融サービスの“プレミアム”
フランソワ・モロー(HSBCグループ 香港上海銀行 個人金融サービス本部長)インタビュー - サブプライム問題は八合目です
山川哲史(ゴールドマン・サックス証券)インタビュー - 「円安・インフレ・高金利」が日本を襲う理由
櫨 浩一(ニッセイ基礎研究所経済調査部長)インタビュー - リスクコントロールでインフレに勝つ
神戸 孝(FPアソシエイツ&コンサルティング社長) - 「国に逆らわないポートフォリオ」で資産防衛
藤巻健史(フジマキ・ジャパン代表) - 穀物価格の上昇は歴史的な物価上昇の序章なのか
柴田明夫(丸紅経済研究所所長)インタビュー - 「モノ聞く株主」の投資哲学に学ぼう
スコット・キャロン いちごアセットマネジメント 社長




