2桁切り上げても輸出は減らない
中国経済を抜きに世界経済を語れなくなった今、
中国の通貨・人民元を抜きに国際通貨体制は語れない。
したたかな政治巧者である中国は、人民元をどこへ導こうとしているのか。

先高観を打ち消す切り上げを
――米国からの圧力だけでなく、中国国内のインフレへの配慮からも、人民元切り上げの必要性は高まっている?
中国はこれまで人民元の切り上げをタブー視してきたが、以前と比べて人民元切り上げへのアレルギーがかなり薄れている。政治家、中央銀行(中国人民銀行)やマスコミも、むしろインフレ抑制の効果などを含めた“切り上げのメリット”に言及するようになった。これまではもっぱら米国からの圧力がクローズアップされてきたが、最近では国内要因から切り上げの要請が強まっている。
――中国人民銀行は「穏健な金融政策」を放棄して「適度な引き締め政策」に移行したが、これではインフレ懸念は沈静化しない?
足元の過剰流動性が、資産バブルを生む懸念を高めている。ただし中国があまりに利上げのペースを速めると、それがむしろ投機資金の流入を促し、不動産などのバブル懸念をさらに煽るという矛盾に直面する。人民元の上昇抑制のために続けている、市場での非不胎化介入(市場に放出した人民元を回収しない介入)をやめないと、過剰流動性抑制の根本的な解決にはならない。
――切り上げの環境は整った?
すでに議論の焦点は、切り上げをやるかやらないかではなく、その“やり方”と“上昇ペース”に移っている。たとえばこれまでのように3%ずつ切り上げを繰り返すような“漸進的”なペースなら、確かに中国経済に大きなショックを与えずに調整することは可能だ。ただし、人民元に投資する投機筋と呼ばれる人々にとっては、“漸進的”な上昇はもっとも居心地が良い。上昇する一方で下落する心配がないのだから、こんなに確実な投資はない。この結果として、投機的な動きをさらに加速してしまう。
その動きを封じ込めるためには、思い切って一気に2桁の切り上げを行うことが望ましい。たとえば20%切り上げて、そこからまた狭いレンジを形成するような手法だ。それによって、人民元の先高観を打ち消すことが必要だ。ただし今は米国経済の不透明感が強いので、2008年に2桁の切り上げが行われる可能性は40%程度と予想している。
雑製品を機械が抜く中国の奇跡
――切り上げの中国の輸出と雇用への影響は?
結論からいえば、15~20%程度の切り上げなら、中国の輸出競争力は損なわれないだろう。その理由として、まず中国の「貿易構造の高度化」が指摘できる。2000年以降の輸出を見ると、繊維などの労働集約的な産業の比率が低下する一方、家電類や機械類などの資本集約的な産業の比率が上昇している。
また、貿易黒字額の内訳を見ると、07年の統計が出揃った段階では、繊維、アパレル、靴、玩具などを含む「雑製品」の黒字を、家電製品などを含めた「機械類」の黒字が追い抜く“奇跡”が起きるかもしれない。鉄鋼などの鋼材製品やパソコンなど付加価値の高い産業の黒字も拡大しており、このような資本集約的な産業ほど人民元上昇に対する抵抗力が高い。
また、この変化によって中国国内の就業構造が変化しており、第3次産業に従事する労働者の比率が上昇している。第1次産業に依存している限り、切り上げで輸出が減少すると、中国の農村部などからの出稼ぎ労働者の雇用が減り、失業問題が深刻化する可能性がある。
ただし今は、新たに第3次産業が雇用を吸収することが可能。特に家政婦などのサービス産業が伸びており、出稼ぎ労働者の雇用の受け皿となっている。一方、原油価格上昇の影響などにより、一次産品の貿易赤字は拡大傾向。中国はエネルギー効率が低いため、この問題の解消は喫緊の課題だ。このため人民元切り上げによって、輸入価格を押し下げるインセンティブが強まっている。
このような変化により、人民元切り上げによる輸出と雇用への影響は、最小限にとどまるとみている。人民元は05年から約11%上昇しているが、足元では輸出が減速する気配すらない。仮に15~20%の切り上げがあっても、中国の貿易黒字は増え続けるだろう・・・
――その程度の切り上げでは、米国の圧力が止まらないのでは?
経常収支の推移を見る限り、現在の中国は確かに稼ぎすぎ。経常収支の対名目GDP比率は07年の上期でなんと12%にも達し、日米貿易摩擦が激化した80年代の日本の4%を遙かに上回っている。これは統計開始以来、人類史上最大の経常黒字比率と言っても過言ではない。
さらに、巨大な経常黒字は、本来なら資本収支赤字の還流でバランスをとるものだが、経常収支と資本収支の「双子の黒字」が累積している。貯める一方の状態で、これでは叩かれても仕方がない。中国はさらに構造的な改革を求められるだろう。
――内需主導経済への構造転換が必要?
内需主導経済への転換は重要な課題だ。ただし、貿易黒字が減らないことは、必ずしも内需が増えないことを意味しない。これからの中国は、内需・外需を両輪として拡大していくだろう。今後の内需をけん引する代表的な分野は、①乗用車②住宅③インフラ④環境保護⑤農業の5つだ。この頭文字をつなげると、新生CHINAの姿が見えてくる。事実、個人の乗用車保有台数はうなぎ上りで、都市化の進行で住宅には巨大な潜在需要がある・・・



