揺れるドル高政策の足元
“ドル離れ”を感じさせる事例が相次ぎ、国際金融市場でユーロが着実に
その存在感を増している。戦後続いたドルの基軸通貨体制は、
はたして永続可能なのか? 今後の国際通貨体制はどうなるのか?
構成=FJ編集部 写真=鰐部春雄

米国はたとえれば世界最大の銀行
――“ドル離れ”の動きが広がっている。
ドルをめぐる環境は、サブプライムローン問題を契機に大きく変わった。ドル離れの兆候を象徴的に示すのが、対米証券投資の急激な減少だ。米国の経常赤字は年間8000億ドル(約90兆円)近くに及ぶので、これを常に海外からの資本流入によって埋め合わせなければならない。
ところが2007年7~9月期の3カ月間について言えば、この間の約1800億ドルの経常赤字に対して、外国人投資家の対米証券投資額はわずか440億ドル強にすぎなかった。つまり赤字の補てんが1360億ドル近くも不足したわけだ。
――米国のドル政策の変化は?
かつてルービン元米財務長官が、「経常赤字は原因ではなく結果である」と述べたことがある。経常赤字の原因は米国にあるのではなく、ドル資産が魅力的なので外国人投資家がこれを好んで購入するため、この結果ドルが上昇して輸入が増えて赤字になるのだという論法だ。つまり、「経常赤字は外国人のせいだ」というわけだ。
この論法は、最低でも米経常赤字に見合うだけの金額、今なら1四半期で約1800億ドル、月間で約600億ドルの資本流入があってこそ初めて成り立つ。しかし、米国を銀行にたとえると、今は米国が必要以上に集めた預金を、世界の預金者が引き出そうとしている局面だ。
米国はこれまで海外から集めた資金を、新興国市場などでさらに高利回りで運用していたわけだが、今後はその歯車が逆回転しかねない。これまでとってきた「強いドルは国益」とする政策が、今回のサブプライム問題を契機に行き詰まる可能性がある。
――ほかに“ドル離れ”を暗示する事例は?
昨年末にブラジルのスーパーモデルが、米家庭用品大手プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)と広告契約を結ぶ際に、ドルではなくユーロで契約料を受け取りたいと要求したと報道された。この事例は、ドルの信認が市民レベルでも低下している象徴と言えるのかもしれない。
高い利回りを要求される米国
――各国の中央銀行の動きは?
世界各国の中央銀行は、外貨準備に占めるドルの比率を徐々に引き下げている。01年時点ではドルの比率が7割を占め、ユーロの比率は2割に届かなかった。それが昨年3月末時点では、ドルが64・2%まで低下したのに対して、ユーロが26・1%まで上昇。ユーロは3位の英ポンド以下を大きく引き離している。
さらにここへきて注目を集めているのが、政府系ファンド(ソブリン・ウエルス・ファンド=SWF)の動向だ。今、世界の中央銀行の中でドルを蓄積しているのは、先進国ではなく途上国。産油国はオイルマネーで、新興国は輸出増で外貨準備を積み上げており、世界のSWFの資産規模は約300兆円に達すると推計される。ただ単にドルに投資するだけでは資産価値を守れないと判断したSWFは、運用対象の多様化を進めている。
外貨準備は一般的に安全性を重視するため、米財務省証券の比率が高くなる。ただし同時に収益性も重視するSWFは、利回りが低く、先安懸念も強いドル資産に対する関心が相対的に低い。投資対象も株式や銀行への出資など、さまざまな資産クラスに多様化することで、ポートフォリオの分散化を図っている。
――SWFは米系銀行や証券に出資を決めたが。
ドル資産に投資するとしても、要求する利回りは債券などよりも高い。たとえば米シティグループに対するアブダビ投資庁の出資は、出資証券の利率が年率11%にものぼり、世界の金融界をアッと驚かせた。今後、米国が海外から資金調達をする際に、以前より高い利回りを要求されることを示唆している。
高い金利で調達しなければならないということは、2008年以降の外国人への利払い費が膨らむことを意味する。また、今はまだ出資を決めたばかりだが、将来的には株主として発言し始めるかもしれない。オイルマネーが世界の金融市場を牛耳り始めたような印象さえあるが、これは中東情勢を不安定にしたブッシュ政権自らがまいた種でもある。
ドルは主要な先進国を対象とした実効レートですでに歴史的な安値圏にあり、また、対先進国ほどではないとはいえ、新興国通貨を含む加重平均でも下落が続いている。
ただし、ドル安の効果でせっかく貿易赤字を減らしても、一方では高い出資利回りを仰ぐことで、貿易赤字の減少分を所得収支の赤字拡大で相殺されてしまう。この結果、坂道を転げ落ちるように、ドルに対する不信感が強まるということが起きかねない。
――すでに膨大なドル資産を保有するSWFがドル離れを起こすことは、自分の首を絞めることにならないか?
そういう面は確かにあり、急激にドル資産を手放すことはできない。ただし、漫然と持ち続けていても問題は解決しない。少なくともドル建て資産が目減りする分を、他の資産運用によって補うことを考えなければならない。原油輸出の決済通貨がドルである湾岸諸国ですら、ドルペック(連動)制の放棄と自国通貨の切り上げを模索し始めている・・・



