
日本が中国とインドに抜かれる日
台頭著しい新興諸国。対照的にキャッチアップを終えた成熟国家日本。
産業再生機構でCOO(最高執行責任者)として数々の企業再生の修羅場を経験した冨山氏が、
日本企業の将来に、そしてニッポンの未来に警笛を鳴らす。
日本は戦後、奇跡といわれる経済成長を成し遂げました。
しかし、あまりにも長い成功体験が、かつての成功モデルに
過剰に適応する結果をもたらしてしまったのではないか。
現在の経済環境は、かつてとは大きく変わっています。
少子高齢化で人口が減り、総需要が縮むことなど誰も考えませんでした。
また、中国やインド、ロシアなどの新興国がこれほど大きなインパクトを
持って登場してくるとは、誰も予想していませんでした。
環境が大きく変わってしまったのです。
ところが、こうした中で、日本はその変化に対応できないでいる。
このギャップこそ、“失われた15年”の実相ではないかと私は思っています。
新しい環境に、日本は不適応を起こしてしまっているのです。
かつてうまく機能していた日本の“システム”は機能不全に陥り、
古い体制の中で育ったリーダー層のマネジメント力やガバナンス力も、
大きく低下していったのではないでしょうか。
今、日本は好景気であるとされています。
しかしこれは、ひとまずの対症療法と海外特需という外的要因によるところが大きい。
実際、生産性指標で見ると、多くの産業セクターで日本はOECD 諸国の中で
かなり下位に位置しています。1人当たりGDP(国内総生産)も
、いつの間にか世界の10位以下に滑り落ち、持ち直す気配はありません。
バブル経済のあたりから、日本をダメにしてきた問題はもっと根本的で深刻なものであり、
日本経済、そして多くの日本企業は本質的な解決策を見出していないと思います。
むしろ、ひとまずの小康状態のぬるま湯の中で、
またこの本質的な問題を先送りする兆候も感じます。とりわけマネジメント、
経営を担うリーダーの脆弱(ぜいじゃく)化は、世代が下がるにつれて、
危機的な状況にあるのではないでしょうか。
~中略~
株式会社も社会体制も、そもそもそれを使いこなす人間様が
よりよく生きるための道具にすぎません。わが国における20世紀型の社会システムも
経営モデルも同様です。その関係が、繁栄の惰性の中で逆転していたのかもしれません。
これこそが、日本の環境不適応、機能不全の要因のひとつになったのではないかと私はみています。
そして、企業は何のために存在しているのか、真のリーダーとはどのようにして選ばれるのかさえ、
体制の予定調和のなかで、本質が忘れ去られてしまったのではないでしょうか。
日本は少資源国であり、頼りは人的資源のみです。明治維新以降の奇跡的な
キャッチアップも戦後の復興も、日本人が優れた人材だからできました。
ところが今、その優秀さをうまく活かせない仕組みが日本を歪めています。
【冨山和彦著『会社は頭から腐る』(ダイヤモンド社)より抜粋。以下同】
世界的な人件費の
“サヤ抜き”
120年前、日本は欧米の帝国主義で植民地にされてしまうのではないかという
脅威が国に押し寄せた。いわば、外圧によって、世の中のパラダイムが一変してしまったのである。
そして今、日本は自国の豊かさに対する最大の脅威を目の前にしていることに、まだ多くの人は気づいていない。
それは、圧倒的な存在として目の前に立ちはだかっている。アジア諸国の勃興であり、
旧社会主義諸国の勃興である。間違いなく、日本がこれまで稼いでいたいくつかの産業は、
彼らに奪われることになるだろう。所得は移転していく。意外と日本が守れると思っている領域も、
長い目で見ればわからない。
―― グローバル化の影響は?
経済がグローバル化したことによって、世界中の国々は労働力を輸出できるようになった。
“おカネ”と“モノ”が自由に動くことは、実質的にそれらを介在して労働力も自由に動くことを意味す
る。従来は国境を越えることが難しかった人材が、今は業種を問わず国際競争にさらされている。
中国やインドなど極めて人口が潤沢な国々が市場経済に参入してきたことで、
日本をはじめとする先進国は、特に単純労働の世界ではもはやこれらの国々に太刀打ちできず、
国内賃金に低下圧力がかかり続けている。帝国主義にでも戻らない限り、
もうこのグローバル化の波を止めることはできず、日本はこれを受け止めるしかない。
「日本が市場主義経済の中で弱肉強食の政策をとったから格差が拡大したのだ」という主張は、
問題のすり替えでしかない。この流れの中で格差縮小のために所得再分配を行おうとすれば、
結果的には国富の膨大な流出が生じるだろう。
保護政策によって人為的に労働市場の需給バランスを歪めれば、
競争力のない産業のさらなる空洞化を招く。
その結果、ますます巨大な資金でそれを埋め合わせる必要が生じて、財政はさらに悪化する。
世界的な人件費のいわば“サヤ抜き”が行われるため、問題の本質的な解決にはならない。
所得格差の問題も、本質的な背景はここにある。
―― 日本経済が直面する課題は?
自分の会社はドメスティックな会社だから、グローバリゼーションとは
関係ないと考える人は少なくない。ただし、小売業や温泉、交通機関などといった意外な、国
際化などとは無縁と思える企業にも、グローバリゼーションの荒波が押し寄せている。
これを完全に防ぐには再び鎖国するしかないが、それは不可能だ。
現実的な対処法は生産性を上げて、より大きな付加価値を創造すること。
つまり日本人の人的な生産性を、賃金水準に見合う水準まで引き上げることだ。
それによって1人当たりGDPの水準を回復することなしに、この国の豊かさは守れない。
今後は一層、日本の「教育」と「競争」の“質”が問われるだろう。



