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岩瀬大輔「先駆者たちの証言」
第1回 羽生善治氏(将棋棋士・名人)

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新時代を開拓する賢人たちに
経営・ビジネスのヒントあり。
次世代リーダー・岩瀬大輔が
珠玉の言葉から思考を磨く!

構成=香川誠 写真=鰐部春雄


2010年ヤング・グローバル・リーダーズに選出された岩瀬大輔が、
達人たちの言葉からビジネスの神髄を見いだす。

連載第1回は最強棋士、羽生善治名人をお迎えした。天才頭脳が衝突、融合する。


岩瀬 羽生さんはチェスの強豪としても有名ですが、僕も小学生のころ、チェスに凝っていたことがあります。「クイーンズギャンビット(女王の賭け)」という、序盤で駒を犠牲にして広い空間を作る定跡が好きだったのですが、子供ながらにリスクを取って前に出ていく戦い方に心が躍ったことを覚えています。音楽家が音を通じて表現するように、棋士も盤上で自分を表現する感覚があると思うのですが、性格や考え方で指し手も変わるものでしょうか?

羽生 そうですね。速攻が好きな人もいれば持久戦でじっくり戦うのが好きな人もいます。好きな駒も違うし、その人の個性は必ず盤上に表れます。ただ、今はデータの分析、定跡の研究が進んでいるので、そこも踏まえていかに個性を出すかという矛盾したことをしなくてはなりません。

岩瀬 個性でいうと、「スタイルがない」、つまりどんなスタイルも取れるといわれる羽生さんはある意味、無色透明な水のような印象も受けます。

羽生 そうかもしれませんね。体系化が進むと、あまり勝てない方法は使われなくなって可能性がどんどん狭まります。それでは息苦しいし、楽しくないし、個性も発揮できない。多少のリスクがあっても、いろいろやってみるほうが私は楽しい。それに「これしかできない」では、相手にそこを突かれてしまう。

岩瀬 少年時代からのライバル、森内俊之九段は羽生さんの指し手に「なんだこれ」と言葉を発しました。経験豊富な棋士をして「なんだこれ」とは……。

羽生 例えば王様を囲う「穴熊」という戦法は、ちょっと前まで邪道だからと白い目で見られていました。でも今は邪道や筋悪(すじわる)、異端といわれてきた「なんだこれ」という手から新しい流行が生まれています。第一印象で「これは駄目だから選ばない」とはしない。そういう意味では私は指す手を選ぶ基準が甘いのかもしれません。

岩瀬 トッププレーヤーでありながら異端なことに挑戦するのは、素晴らしい精神だと思います。勝ちへの執念と、リスクをとって新しい挑戦をすること。どうバランスを取っています?

羽生 その一局において一番勝つ確率が高い方法というのも確かにあります。でもそれは10年後には一番リスクの高い方法なので、目の前の勝ちを取るか、将来の勝ちを取るためにその場を我慢して続けるかというせめぎ合いになります。プロになりたてのころはリスクが分かっていなかったのでただがむしゃらでしたが、今は意識的にアクセルを踏んでいます。これさえやっていれば無難に80点くらい取れるとか、そういうやり方を自然に覚えてしまう。そうすると知らない間に減速していることが結構あるのです。
棋士は10 代から70代まで長く現役でいられる一方、無理をするとどこかで反動が出ます。自分自身の好不調とか、モチベーションの問題とか、一日の中でも浮き沈みはありますよね。そういうことがあるのはしょうがないと割り切ってできることをやっていくことが大事ですし、それくらいしかできないのかな、というところはあります。

岩瀬 長期的な視野から流れをつかむことが大切なのですね。僕はM&Aの仕事をしていたころ、上司から「交渉で一番大切なのは大局観だ」と言われたことをずっと覚えています。羽生さんも大局観の重要性を説いていますが、いつごろ気付かれたのでしょうか?

羽生 気付いたというよりも・・・


続きはFJ6月号で


インタビューの様子を収めたビデオはこちら



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