
「燃える闘魂」――。
カリスマレスラーとして知られるアントニオ猪木氏だが、
マッチメークや演出などアイデアマンとしても定評がある。
ファン心理を巧みにくすぐる猪木氏は、プロスポーツの低迷を分析する。
構成=吉岡憲史 写真=鰐部春雄
かつてファンが熱狂した
パフォーマンスが嫌われる
── プロ野球を中心にスポーツ中継の視聴率が低迷しています。かつてはプロレスも毎週ゴールデンタイムで放送していましたが、今は深夜帯ですね。
(ゴールデン放送)当時はすごい視聴率でしたけど、それだけじゃなくてわれわれの時代はテレビ局側に「テレビ=プロレス」みたいな情熱がありました。
プロレスというのはスポーツではあるがエンターテインメントという要素もある。観客をいかに喜ばせるかという感覚をもたないといけない。野球の場合は打率とホームラン数によって、自然に人気が出るでしょうが、それとは違う。球団には親会社が必ずついていますからね。プロレスには野球のようにスポンサーがいない。そのせいか、われわれがやっていた時代は“ハングリー精神”が凄かった。そういうエネルギーをファンは感じてくれていたと思う。
── 「プロレスはエンターテインメント」とおっしゃいましたけど、野球人気回復のためにどのように“演出”が必要だと思いますか?
なんていうかなあ、選手みんながイイ子になっちゃったんですよね。もっと荒々しくていいと思いますよ。でも、今は“パフォーマンス”が嫌われてしまうようです。人間が本来持っている“喜怒哀楽”みたいなものはそういうところに凝縮されているからこそ、ファンも熱狂するんですけどね。パフォーマンスが批判されてスキャンダルになっちゃうもんだから、選手が萎縮してしまう。プロレスには、襲撃事件なんかもあったし、選手同士が駅で遭遇して乱闘になったというのもあった。
── 猪木さんのようなスター選手がいないから、盛り上がらないという気もします。
なかなか出てこないですよね。まあ、ゴルフの石川遼君みたいなのは非常にまれなケースですね。日本人の気質として、熱しやすく冷めやすいという側面があります。教育やテレビの影響もあると思いますよ。テレビは結局タレントを使い捨てるでしょう。オレも50年プロレスの世界にいるけど、一世を風靡しては消えていった選手を何人も見ています。人気商売だからある程度は仕方がない。
── 猪木さんご自身は長く人気を維持されていますよね。
不思議なことです。引退した時が人気のピークだと思っていたら、「アントニオ猪木」の知名度がずっと維持されている。ギャラのほうもね(笑)。これって何だろうと思いますよ。この前、朝青龍と話したんだけど、「私も猪木さんみたいになりたいんです」と言っていましたよ。そう言われても、どうしたらなれるかはオレにもわからないなあ。
── 「教育の問題」とはどのようなものですか?
小学校の運動会で手をつないでゴールするやつ。こんなの「そんなバカな話あるわけねーだろ!!」と誰かが言い出さないと。みんな「悪役」になりたくないから、ビビッちゃって本当のことを言えなくなっている。要するに競争社会という重心がありながら、社会にもう一つ別の真逆の重心がある。野生の王国じゃないけど、やっぱりみんな良い遺伝子を残そうと思って闘っている。これは本能で、メスのほうは良い遺伝子を残すために闘いに勝ったほうを選ぶ。
力道山のプロレスには
“真剣勝負”があった
――競争社会の敬遠がスポーツの人気低迷にもつながっているということですね。
やっぱり“イチバン”っていうのは、みんなの目標じゃん。「2番ではダメなんですか」っていうのが流行っているらしいけど、イチバンを目指すことが大事。もう一つは、プロとアマチュアの境目というのが非常にあいまいになっちゃってる。みんなお金をもらわなきゃやらないくせに、「アマチュア精神!」と主張してご まかす。オレはそういうウソがまかり通ってきたことに一番腹がたっていますよ。スポーツを通じていかに儲けるかというのはプロですが、「アマチュアだから」と言って国に予算をつけてもらうなんて。
── 確かに予算がつくなら、人気維持の動機も薄らぐ。
ことあるごとに「プロレスは八百長だ」なんて言われてきましたけど、オレなんかはタンカ切って「見たくねーヤツは見るなー!!」って言い続けたからね。「プロ」だという自負があるから、客に面白いモノを見せてやる気概があった。さびしいのは・・・



