磯崎哲也×夏野 剛×山口 浩 座談会
福島原発の爆発事故が起こったとき、ツイッター上で飛び交った言葉がある。
「タチコマがいればよかったのに」──絵空事と笑うなかれ。
『攻殻機動隊 S.A.C.』シリーズに描かれた未来は希望的なものも、
深刻なものも含め今目の前に次々と現れている。
各分野で活躍中の3氏。彼らの共通点は“『攻殻機動隊 S.A.C.』ファンであること”。
彼らから見た、この作品の魅力とは?
白熱した話はテクノロジー、社会、金融と多岐にわたり、いつまでも尽きることがなく……。
タチコマから見える〝ロボットと人間の共存〞
山口 『攻殻機動隊S.A.C.』のすごいところはまず、テクノロジーの進歩に対する希望的な部分と「こういう恐怖もあるんじゃないか」っていう部分、両方ちゃんと描いているところですね。
夏野 メカも全体的に〝人間的〟ですよね。アームスーツや義体もそうだけど、完全にロボット化するのではなく人間とロボットを組み合わせている。ロボットで言えば、実際に今、そういうものが増えてきていますよね。一方で、タチコマみたいにAI(人工知能)を搭載したものも出てくる。タチコマは人が乗れるっていうところがまた面白いですし。
磯崎 乗るにはかなり狭そうですけどね(笑)。エコノミークラス症候群になりそうな。
山口 僕、テレビ2作の主役はタチコマだと思ってるんですよ(笑)。一番オイシいところをもっていってるし。あといくつか根底に流れるテーマの一つに「機械が心を持ちうるか」というテーマがあるけれど、彼らは2度、心を持ちながらもつぶされる。そんなタチコマから見えてくるのは〝ロボットと人間の共存の一つの形〟かなと。よく聞くのが、お掃除ロボットの「ルンバ」ありますよね。あれを買った人はルンバが可愛くてしょうがないっていう。
磯崎 うちにもありますけど、ルンバがうまく動けるように道を作ったりしますね(笑)。
夏野 どちらかに分かれるんですよね。ルンバが好きな人と〝役に立たない〟と切り捨てる人と。『攻殻機動隊S. A. C.』が好きな人かどうかって、それで分かるかもしれない。多分ルンバが好きなタイプですよね。
山口 でも素子は機械に愛着を持たないタイプなんですよね。バトーは機械に愛着を持つタイプ。男はそっち側が多いのかな。
夏野 でもほんと、『攻殻機動隊S. A. C.』を参考にして日本はもっとルンバ的な製品を出すべきだと思う。
磯崎 でも残念ながら今回、福島原発の事故の際に使われたのは日本製のロボットではなく、そのルンバのメーカー、アイロボット社の製品なんですよね。
夏野 あの2台並んで進む感じはちょっと可愛いんだけどね(笑)。
山口 そういえば最近、昆虫型の小さいロボットなど、マイクロマシン的なものも出てきましたよね。
夏野 でもそういうので日本の製品って少ないんですよ。日本のメーカーの経営者はもっと『攻殻機動隊S.A.C.』を見るべき! こんなにヒントが詰まっているアニメ、無いですよ。
義体と電脳が実現する社会は来る?
磯崎 僕は〝義体〟が社会に入ってくる時、どういう感じなんだろうってよく考えるんですよ。素子は全身義体だけど、もともと事故に遭って全身義体にしなければいけないという理由があった。でも『攻殻機動隊S. A. C.』の世界のように、五体満足な人がその健康な体の一部を捨てて義体化や電脳化を進んでするかというと、それはまだ数十年かかる気がする。
夏野 でもレーシックや植毛で外見を全く変えてしまうのも似たような感じかな、と思うんですけどね。
山口 電脳化はどうでしょうね。通信機能が付くと便利だと思いません?
磯崎 便利だと思いますよ。僕は真面目な話、実現するなら補助電脳を付けて直接ネットにアクセスしてしまいたいくらいの人間なんで。でもまだ、社会的全体がそうなるかというと……。
夏野 僕はもうすぐだと思うけどなあ。今のツイッターやフェイスブックを見ていると、〝自分の思考とネットがつながる〟という世界がもう近づいているんじゃないかと思いますよ。まだデバイスを介してるっていうだけで。
磯崎 限りなく肉体と一体化するインターフェース……キネクトとか、ああいうのは開発されてますけど、手術までするとなるとハードルは高いですよね。
山口 別作品ですけど、アニメ『電脳コイル』の電脳メガネ(※メガネ型のウェアラブルコンピューター)とか。
夏野 あっちのほうが(実現は)先でしょうね。
磯崎 あとは携帯電話のように常時肌身離さず携帯するものか。
夏野 ちなみに携帯電話を開発していた立場の人間から言うと、もともと身体の中には入っていないけれど、〝身体側に近いデバイス〟として開発したんです。だからアニメだから〝デバイスが身体の中に入る〟という形になっているけど、僕の感覚としては近いところに来てるんじゃないかなと。
山口 義体を遠隔操作型のロボットとして考えると、かなり近いところに来ていますよね。
夏野 映画でもそういうの増えてますよね。ブルース・ウィリスの『サロゲート』や、『アバター』も言ってしまえばそう。
山口 〝テレイグジスタンス(遠隔臨場感・遠隔存在感)〟という言い方をするんですけど、場所を選ばないで作業できる。ああいうヒューマンインターフェースの形は今後より注目されていくでしょうね。
夏野 でも電脳化すると、どこまでが自分の意識でどこまでが外部の意識なのか。そこは問題になりますよね。
山口 例えばネットで検索した上で自分の意思で決定した〝つもり〟でも、そこに自分の自由意思はどこまで入っているか、というのは疑問点がある。
夏野 最近、一見正しい意見を言っているようでよく聞くと「いやそれツイッターで別の人が言っていたことだよね?」ということが多々あるんですよね。でも他人の意見が自分の意見になっていることに自分自身気付いていないという。
磯崎 それこそ「スタンド・アローン・コンプレックス」ですよね。
山口 作品には進化に伴う良い題点の方が強く描かれています。現実の僕たちとしては、どう〝良い方向に使うか〟を考えていきたいですよね。
夏野 新しいテクノロジーが入ったときにどういう環境に置かれて、そこに起こった問題をどう解決するか。これって、古典的なハードSFの作り方なんですよ。でもその中には実際に使えるアイデアがたくさんある。静止軌道衛星だってアーサー・C・クラークの作品から生まれたわけですから。
構成・川口有紀
(c) 2011 士郎正宗・Production I.G / 講談社・攻殻機動隊製作委員会