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香山リカ(『しがみつかない生き方』著者・精神科医)
競争を強いられた社員と競争に敗れた社長

自己実現の行く先は自己否定だった

「金融雑誌と私の考えは相いれないでしょう」──。
インタビューを前にこのように話した香山リカ氏。
競争主義に“しがみついた”現代人が今大きな病を抱えている。
見えないものに幸せを求める幻想を捨てなければ救われることはないと主張する氏が、
ありふれた言葉になった「現代社会の闇」を再考する。

構成=吉岡憲史 写真=鰐部春雄

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競争だけで救われるのはごく少数

── 執筆された『しがみつかない生き方』がブームになっていますが、この現象をどのようにとらえていますか?
 ただ、タイミングが良かったというのはあると思いますよ。これまでも過度な市場主義、あるいは新自由主義の世の中に批判的な発言をしてきました。以前は私の発言に対して反発する人が非常に多かった。むしろ競争の中で向上しようとする行動に水を差すのかという意見ですね。
今回も目新しいことを書いたわけではなくて、これまでに私が言ってきたことを繰り返している部分も多い。けれども共感を得ているとしたら、時代が変わってきているということなのでしょう。皆が競争、向上、成長というものに疲れていて、これではうまく乗り切れないと思うようになった。

── 変わってきているということを具体的に実感することはありますか?
 精神科医として臨床の現場にいると、うつ病の患者が多くなっていることを実感できます。それだけじゃなくて、競争していてまだまだ頑張りたかったけど、景気が悪化して競争ができなくなった人がストレスを感じていることも分かってきました。
 なんと言っても8月の選挙で、福祉政策などを重視していた民主党が勝ちました。一般的な有権者が政権に期待しているのは、経済成長ではなくて福祉や医療を何とかしてほしいということ。弱い人を助けてほしいという声が圧倒的に多かった。それを見ても変化を感じますよ。今でも頑張って上を目指している人はいるけど、それによって格差が広がってしまいました。競争だけで救われる人はごく少数で、多くの人は苦しい立場に追いやられているのではないかと考えています。
 これは何も日本社会に限ったことではありません。例えばアメリカでもオバマさんが登場して、彼はエリートではあるけれども黒人系の大統領。マイノリティーの出身です。しかも彼自身はこれまでの常識だった「強いアメリカ」ではなくて、むしろ「アメリカ単独主義」を反省するような発言を繰り返している。これまでアメリカが触れてこなかった医療保険の問題にも着手しようとしている。勝った人だけがいい思いをするのではなくて、皆で支え合っていこうというやり方です。いわばこうした協調路線が日本だけではなくて、アメリカでも支持されてきています。

助け合いが日常の中で機能しなくなった

── “社会的弱者”という言葉がクローズアップされるようになったのはいつ頃からですか?
 1990年代の後半に入り、いわゆるバブルが崩壊して不況が続いた辺りではないでしょうか。カルロス・ゴーン(日産自動車CEO)さんみたいな人がどんどんやってきて、企業社会の中で成果主義が導入された。その結果、終身雇用に代表される安定雇用が崩壊した。こういう時代背景の中で、そうした弱い層が急増したということもあったと思います。
 重大なのは職場や地域社会での助け合いが劣化したことに加えて、成果主義の職場では自分だけが生き残らなければという風潮が出てきてしまったこと。困っている人を見て見ぬふりをするのが当たり前になった。制度としてではない「助け合い」が日常の中で機能しなくなってきている。

続きはFJ1月号で



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