リーマン・ブラザーズの破たんが明らかになって以降、
世界中で株安が急速に進行。金融市場は危機に陥っている。
動揺も混乱も、しばらく止みそうもない。
構成=FJ編集部

[インタビュー]大島一宏
三菱総合研究所エコノミスト
米国経済反転のカギは
金融市場の機能回復と新興国経済
外資系証券会社勤務を経て三菱総合研究所のエコノミストに転じた大島氏は、
主にマクロ経済政策について研究。同研究所が9月に出版した
『東京 金融センター戦略 見えない規制を超えて』の執筆にもかかわった。
その大島氏に、今後の金融市場の動向をどう見るかと、
東京市場をいかに変えるかという点について聞いた。
ファイナンシャル・アクセラレーター効果?
リーマン・ブラザーズの破たんについては、今回の金融危機のきっかけにはなったが、同社破たんそのものの影響を問うよりも、なぜそれが起きたのかという背景について検証するほうが重要だ。
背景として大きく分けて4つが考えられるだろう。①過度に上昇した住宅価格の調整②過度に高まった金融機関によるレバレッジの調整③金融機関、市場を含めて先行きへの過度な期待(ユーフォリア状態)の調整、そして以上に伴って生じた④金融機関の自己資本不足懸念――だ。
そこで今後注視が必要なポイントは2つある。まず、足元で混乱の生じている金融システムの安定をいかに図るか、そして、住宅バブルに支えられてきた米国経済が膨張した信用を徐々に調整していくなかで、米国経済がどういったシナリオで着地を図れるかだ。特に後者については、金融市場と実体経済が循環的に悪くなっていくことが考えられる。資産価格が下落して企業や消費者、金融機関の財務内容が悪化すれば、資金調達が困難となり、個人消費や設備投資が抑制される。いわゆる「ファイナンシャル・アクセラレーター効果」が本格的に働く状況に入っていく恐れが強いということだ。アメリカ経済の反転のきっかけを見つけるのは容易ではない。
金融システムの安定化には
何よりもスピードが求められる
当面は、健全な経済活動の前提条件となる金融システムの安定のために政策資源は集中投入されるだろう。
金融安定化法案は、一度は否決されたものの、修正されて可決成立した。しかし、金融市場の悪化は続いた。主にこれは、金融機関の自己資本毀損に対する懸念が速やかに払拭されないと判断したためだ。①自己資本問題を本質的に解決できるか、②金融市場の悪化に対応できるスピード感があるか、この2点が注目されると思う。
焦点になるのは、不良資産の買い取り価格とスピードだ。政府は、逆入札方式で最も低い価格を提示した金融機関から資産を買い取るスキームを示した。しかし、金融機関の自己資本を回復させるという点からは、こうした価格決定メカニズムで決まる買い取り価格は、金融機関の救済を通じた金融システムの安定を実現するには低すぎるものとなるだろう。また、スピードという面からも、資産の買い取りプロセスはそれなりの時間が必要となる。金融システムの安定化が急務の状況においては、十分に迅速な対応を図りにくいかもしれない。
では、資本注入をすれば問題は解決するかといえば、これもできるだけ速やかに枠組みを準備する必要がある。新たな法案が必要となるのであれば、立法にはそれなりの時間がかかる。強制的な資本注入を可能とするか、経営者の責任をどう問うかなど、不良資産の買い取りとスキームの関係整理なども短期間に詰める必要がある。
こうした政策を実行する上ではさまざまな利害対立がある。納税者と税金注入を受ける金融機関の間の利害対立はわかりやすいところだ。また、やや長い目で見た経済の安定性確保という面からも課題がある。公的資金による救済規模いかんで、市場から「財政赤字拡大リスク」が強く意識され、ドル安などが進めば、グローバルなマネーフローの均衡が大きく崩れかねない。
ただ、少なくともいえるのは、同じ救済規模であれば、とにかく今求められるのはスピード、ということだ。
雇用統計へ注視を
反転のきっかけは新興国?
米国経済の今後がどうなるかを見る上で注意すべきは、やはり雇用統計だろう。アメリカ経済は消費で成り立っている面が大きいが、消費を支えるのは雇用だからだ。雇用統計が悪かった結果、金融安定化法案が通ったにもかかわらず、NYダウは大きく値を下げた。今後は、拡大した信用の調整が実体経済の活動に影響を及ぼしていく流れが強まる中で、雇用の悪化がどの程度進むかに注目していく必要がある



