2007年3月に400億円以上の剰余金を国庫に納付し、予定よりも1年早く解散した産業再生機構。
その組織のCOO(最高執行責任者)として、数々の企業再生を手がけた冨山和彦氏。
景気後退で、中小企業の経営環境は今後さらに厳しくなる。どうすれば生き残れるのか、
「企業価値を高めるプロ中のプロ」に話を聞いた。
取材=FJ編集部 写真=鰐部春雄

景気後退期は競争力強化のチャンス
―― 景気後退で、中小企業の経営環境は、今後さらに厳しくなりそうです。
中小・零細企業が一番大変です。当分の間、日本経済は大変な状況が続きます。日本経済全体の収益構造・所得を作るモデルが、いまだに「加工貿易」一辺倒で、おカネに仕事をさせることができていない。個人は資産の大半を預貯金で持っている。企業もサービス業や非製造業でおカネを作ることができていない。結局、製造業が加工貿易で稼ぐか、あるいは海外で物を作って海外で売るか、という2種類しかない。しかも、競争力のある企業は製造業に集中している。製造業を営む中小・零細の企業のほとんどが、こうした加工貿易モデルの中に組み込まれている。実は現在のようなスタグフレーション下で、一番苦しいのが加工貿易型の製造業です。川下の商品はデフレ圧力にさらされる一方で、川上の原材料がインフレ圧力を受ける。結局「川中」が悲惨な目にあう。日本では、大企業と中小・零細企業の関係が、ある意味、完全に固定化された「士農工商」制度のようになっています。今みたいな状況になったとき、最後の最後に削られるコストが、大企業や政府などの大組織の正規雇用の人たちの給料です。他方、その前段階で中小・零細企業や非正規雇用の人たちで、コストを吸収しなければならないので、中小・零細企業にとっては、すでに非常に厳しい状況に突入しています。
―― そうした中でも、生き残れる会社と生き残れない会社が出てきます。その違いは?
「基本に立ち返る」ということが重要です。例えば、サービス業についていうと、「守り」に徹したら、それなりに強い。既存のお客さん、近くにいるお客さんを徹底的に大事にする。徹底的に地域密着で経営すると、意外に強いんです。なぜかというと、サービス業の多くでは、規模より密度の経済性が働くからです。しかし、うかつに手広くやって、失敗するケースが少なくない。手広くやると、ビジネスエリアが広がり、お客さんの対象が広がり、売り上げも増えますから、一見すると良さそうですが、経営効率は下がってしまう。それで資金繰りがどんどん苦しくなる。サービス業の場合、実は専守防衛型の商売が多い。こうした前提条件の中で、イノベーションさせなきゃいけないんですが、量的な成長を追いかけて失敗するケースが非常に多い。特に景気が悪くなってくると、我慢できなくなって、ついつい「防空壕」や「塹壕」から出て、攻めたくなるんですが、これは逆で、 足もとを徹底的に固めるべきなんです。だから、あんまりきれいな、カッコいい話じゃない場合が多いんです。
―― 失敗するのは足もとを固められなかった企業ということですか?
手広く、チャラチャラやって失敗しちゃったケースが多いですね。サービスエリアを増やし過ぎたり、ラインを増やし過ぎたり、拡大路線で失敗している。結局、地道に真面目にコツコツやるって、カッコ良くないでしょ。手広く、幅広くやって事業を拡大して、「銀座に出ちゃおうかな」って、考えてしまう経営者が多いんですね。産業再生機構のときに、バス会社の企業再生を手がけましたが、そこはいろいろな事業に手を出していた。例えば石油会社とか、デパートとかを経営していた。バス会社は本来運送業ですから、明確にシナジーがない事業は売却するか、閉めるかして、競争上の明確な優位性がある、より高い収益を上げる力を持っている、得意な事業に集中させました。
―― 事業のリストラは、当然、人員リストラとセットです。著書『会社は頭から腐る』(ダイヤモンド社)では、「農耕民族で構成される日本の会社は情に弱く、リストラができない会社が多い」とも指摘されていましたが……。
景気や経営環境が悪いときは、リストラをするチャンスなんです。一番「納得感」が出やすいですから。逆に景気のいいときにこれをやろうとすると非常に難しい。経営環境が悪ければ、リストラをやらざるを得ないわけですから、自分たちが強い仕事は何か、強い競争要因は何か、ということを見つめ直すには一番いい時期なんです。それができない競争相手は、勝手につぶれてくれるので、本当は「ピンチなときこそチャンス」なんですよ。
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