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グローバル化に近道はない
茂木友三郎(キッコーマン 会長 CEO)

低消費社会でビジネスを拡大する方法
資源価格の高騰などから、十数年ぶりのしょうゆ価格の値上げに踏み切った
キッコーマン。国内の消費頭打ちが指摘され、海外進出を急ぐメーカーが多いなか、
同社の海外進出は今からおよそ50年も前の1957年にさかのぼる。
老舗は今や、営業利益の半分を海外で得ているグローバル企業だ。
その立役者である現会長の茂木氏は、「企業のグローバル化に近道はない」と言う。
海外戦略の現状と展望、値上げの背景、2008年の経済見通しなどについて幅広く聞いた。

インタビュアー=木村 剛(フィナンシャル ジャパン発行人) 
構成=FJ編集部 写真=鰐部春雄

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一体、値上げは罪なのか?
値上げの経験者がいない!

――国内のマーケットが停滞している現状をどうとらえていますか?
 最大の理由は消費が弱いということなのですが、なぜ消費が弱いかというと、国民が不安だからだと思います。では一体、何が不安かというと、一つは、「将来税金が高くなるのではないか」という不安です。もう一つは、「年金がもらえるのだろうか」という不安です。
 ですから、今やるべきことは、財政の再建の道筋をはっきりして、国民に増税がどれくらいなのか、その感触だけでも伝えることだと思います。また、年金についていえば、未払いの問題も非常に大きいので、解決すべきではありますが、それと同時に将来の年金システムをはっきりさせないといけない。国民の多くは信用していませんよね。

――特に30代から下の世代は「年金はもらえない」と思っているでしょうね。
 その点をはっきりさせるべきなのです。これは与野党が政争の具にするのではなく、与野党一緒にやらないとダメですね。人気取りの材料にされたら、たまったものではない。国民の不安を取り除くことが、消費の活性化につながるのです。
 それともう一つは、「物価はある程度上がるものだ」という社会にすることでしょう。日本では値上げするというと、罪を犯したかのように責められることがありますが、そういう考えを払拭することが必要でしょう。資本主義経済である程度物価が上がることは当たり前の話ですから。
 そのためには、値段を上げることについて、経営者の側も罪悪感を払拭しなければいけません。
 もう一つは、原価割れのような不当な廉売を取り締まることです。そうすることで談合をなくすことにもつなげられると思います。日本でなぜ談合が起こるかというと、過当競争があるからです。

――業者が疲れてしまう。
 だから談合が起こるんです。もちろん、「談合が起きても仕方がない」などとは言いませんし、厳しく取り締まることは大切だと思います。
 ですが、不当な廉売を抑えれば、談合なんてだんだんなくなっていくと思うのです。たとえば「1円受注」なんてありますが、あれはおかしいですよ。そういうことをきちんと取り締まることも、「慢性デフレ体質」からの脱却に役立つのではないかと思います。
 それとガバナンス(統治)の強化です。アメリカが比較的過当競争に陥らないでいられる理由の一つは、社外取締役がたくさんいて、執行部の行き過ぎを戒め、諭してくれるからです。
 ところが日本では、競争になると皆カッとなって突き進んでしまう。もっとガバナンスを強化すれば、抑える機能が働くでしょう。

――しかし報道を聞いていますと、小売りサイドの態度は、「値上げ徹底抗戦」のように感じられます。実際、値上げの現場は大変では?
 それはもう大変です。うちもセールス担当なんか、相当苦労しているでしょう。
 ただ、メーカーとしても値上げを言う前に、できるだけ企業努力を積み重ね、コストアップを吸収するというのは当然の話です。それをやらないと、お客さまを失うことになりますから。努力をした上で、それでもある程度適正価格、適正利潤を維持するための値上げは不可欠であると思うのですが……そうした考えを受け入れる土壌がアメリカにはあります。

――日本も50年ぐらい前から見れば、値上げは何度も起きています。直近の10年は値下げ続きでしたから、御社も他社も「十数年ぶりの値上げ」となるわけです。そうなると、現場に値上げを経験した人がいないのでは?
 そう、いないんです。お得意さまに値上げの事情を説明するのが、皆初めての経験なんです。
 この十数年だけ見れば、日本が極端な経済不振に陥って、デフレだということで、値段が上がるような状態ではなかったということは言えるんですが……。値下げだけがずっと続くのは異常ですよね。アメリカでは、値上げは新聞の記事にもなりませんから。もちろん、一度に5割も上げれば記事になるでしょうけれど(笑)。日本では最近、値上げの記事が毎日出ています。

資源価格の値上がりの影響は

――実際、一番効いたのは、大豆の値上がりですか?
 そうですね。あと原油も効きますね。しょうゆの主な原料の一つは大豆ですから、これが一番効くのです。また、原油は物流費、包装用資材、PET容器などに影響しますから。

――大豆の値上がりはまだ続きますか?
 まだ続くと思っていたほうがいいと思っています。というのも、バイオエタノールの需要は高まるでしょうから。環境問題を解決するためには、石炭や石油からバイオエタノールに転換する必要性はあります。
 ただ、まずいのは、食糧と競合すること。食糧と競合しないものでバイオ燃料を作るべきでしょう。アメリカ政府はそのことに気づいて、半年ほど前から、食糧以外のものからバイオエタノールを作る研究を奨励する動きがあります。いくつかの研究機関に研究費や補助金を出したと聞きました。

――バイオエタノールの話ですと、飼料の話がよく出てきますが、大豆にも直接影響があるんでしょうか?
 いえ、直接はありません。あるとすれば、トウモロコシでしょう。アメリカで大豆の値段が上がっているのは、中国をはじめとして世界的に需要が伸びていることも理由ですが、それ以上に、農家が大豆からトウモロコシに転作したことが大きいでしょう。大豆の作付面積が減っているのです。それからもう一つはご存じのとおり投機マネー。これら三つが大豆価格の高騰の要因でしょう。
 環境問題から異常気象が起こって作物が減る。環境問題を解決しようと思って、バイオエタノールを作り、需要が伸びる、そこに投機マネーが重なる。

――もう「上がって当然」といったところでしょうか。
 今のところは、そう思うしかないですね。
 原油にも投機マネーが相当入っています。それと、中国やインドなどで需要が急増しています。ですから原油も上がる傾向が続くでしょう。

――自分たちではどうしようもない理由でコストが上がったのだから、その分は理解してほしいとお思いでしょうが、不振が続く小売りの現場の話を聞くと、値上げどころではない。そこの折り合いはどうつければいいのでしょうか?
 小売りの方にも理解していただけるよう、根気よくお話しすることでしょう。もちろん、消費者にも理解していただかなければいけないでしょう。先ほど申しましたが、ある程度の物価上昇は当たり前ということが一般に理解されていない。そこはPRしないといけない。これは産業界全体で取り組むべき課題です。一社内の問題と思っていません・・・

続きはFJ3月号で



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