
「東京市場をアジアの投資家が利用しやすいプラットフォームに」――。
日本が進むべき方向についてこう語る池尾和人・慶應義塾大学教授は、
「金融立国をめざすこと」を社会のコンセンサスにする必要性を説く。
金融審議会の「我が国金融・資本市場の国際化に関するスタディグループ」
座長などを務める池尾教授に詳しく聞いた
「金融で国を立てる」という
自覚があるかどうか
――「東京を国際金融センターにしよう」という掛け声は以前からありますが、なかなか進みません。
日本にはそれを実現するための覚悟や自覚がありませんでしたから、進まないのも当然でしょう。
国際金融センターと呼ばれる都市を持つアメリカやイギリス、アジアでいえば香港やシンガポールには、「金融で食べていく」、つまり、「金融を経済の最も大きな柱として据えよう」という認識がある。政府、企業、ひいては社会全体が覚悟を持っている。
アメリカはともかくイギリスは、「金融以外の何でやっていくんだ」という意識、自覚があるとう。だからこそ、国民的な優先課題としてシティに金融センターとしての競争力を持たせようと努力している。香港やシンガポールも同様です。
―― なぜ日本ではこれまで、そうした意識が育ってこなかったのでしょうか。
これまで「日本はモノ作りの国」というのが海外からの一般的な評価だったし、自任もしてきた。一方で金融に対しては、「マネーゲームのようなものは下品だ。やるべきじゃない」という考えがある。
だから金融立国をめざすという覚悟ができなかったとしても仕方ないでしょう。
たしかに日本の製造業は国際的に競争力があるのかもしれませんが、雇用や所得を生むという観点から見て、本当に頼りになる産業といえるでしょうか?
―― 製造業にはもう頼れないということでしょうか?
「日本の製造業」と一口にいいますが、大別して2種類あります。
まず輸出中心で国際競争力の高い製造業。自動車や家電などがこれに当たります。もう一つは、国内市場向けの財を作っている、規模の小さい“町工場的”なイメージに当てはまる製造業です。
前者はその強さを維持するためにも海外展開をしており、国内の雇用への寄与はほとんど期待できな。研究開発などの面で一部国内回帰の動きがありますが、規模は小さいし、そもそもこの種の製造業では、“競争力を維持するために”人をあまり雇わないわけです。国内の工場はほとんど無人化されており、機械が動いているだけですから。
後者は中国とまともに競合しており、じりじりと存立基盤と雇用を失っているのが現実です。
総務省の労働力調査を見ると、雇用に占める製造業の割合は18%程度。製造業がないといわれるイギリスでも13%くらいあるにもかかわらず、です。あまり変わらないし、この差はさらに縮まるのではないでしょうか。
―― 雇用が少ないということは所得も生まれないということになりますね。
同時に、「その分野からの税収も期待できない」ということでもあります。
「モノ作りが伝統的に得意」「製造業は国際競争力がある」などといっている分には、プライドは満たされるかもしれませんが、雇用が生まれるわけではありません。現在の国民の意識は「過去の現実」の反映にすぎない。意識と現実にズレがある。そこで、製造業の代わりとなる別の産業が育たなければ、貧しくなるのは自明です。
―― 何であれば取って代われるのでしょうか。
「諸々のサービス産業」でしょう。「金融サービス」を中心にしつつ、ほかのサービス産業も推進する“合わせ技”しかないと思います。
金融だけでいきなり製造業の代わりにできるかどうかというと、現実的ではない。「金融で食べていく」というところまでいかなくても、まず、「金融“でも”食べていく」ことをめざすのが妥当です。―― サービス産業への期待は大きいわけですね。



